2018年平昌オリンピックオリンピック女子シングルでは
ロシア勢のハイレベルな闘いが繰り広げられましたが
その激闘を制したのはロシアの新鋭、15歳のアリーナ・ザギトワでした。
12歳で親元を離れモスクワに拠点を移し、
リプニツカヤ選手やメドべージェワ選手をはじめ多くのトップ選手を育てて来た
エテリ・トゥトベリーゼコーチに師事。
めきめきと頭角を現し、数々の歴代最高得点を更新し続けています。
オリンピックのフリープログラムに選んだ曲は
赤いチュチュの衣裳を着て、バレエの振り付けを取り入れた
バレエ『ドン・キホーテ』。
ジュニア時代から2シーズン滑りこんでいるだけに自信あるプログラムです。
バレエ『ドン・キホーテ』は
セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」をモチーフとして描かれた
陽気なバジルと粋なキトリの
若い男女の恋物語。
ロシアで活躍した作曲家レオン・ミンクスによって作曲されました。
スペインのバルセロナを舞台としているだけあって
キレのあるスパニッシュダンスの振り付けが多くみられ
ザギトワ選手もそのスパニッシュダンスの振り付けを
要所要所、巧みに取り入れてリズミカルに演技しています。
この闘牛士のようなポーズも
闘牛士と街の踊り子のシーンを表現しています。
真っ赤なチュチュもスパニッシュダンスのイメージからだと思います。
曲はまず第3幕の華やかなグラン・パ・ド・ドゥで始まります。
バレエでは男女2人が優雅に踊り
男性が女性をリードしたりリフトしたりしますが
不安定な姿勢でも
ザギトワ選手はまるで後ろで男性が支えているかのように
美しい姿勢を保ったまま滑っていて
バレエの舞台がそのまま氷上へと移動したかのようです。
途中第1幕のアダージョを挟みます。
少し物悲しいワルツのメロディーに乗せて、ギター片手に愛を育むバジルとキトリの姿を
情感豊かに滑っていきます。
そして再び舞台は第3幕へ。
一番の魅せどころキトリが踊る32回転のフェッテターンを
ザギトワ選手は連続ジャンプのコンビネーションで軽やかに表現しています。
『ドン・キホーテ』という長い演目をたった6分間で表現するのに
2人の結婚式のシーンのグラン・パ・ド・ドゥの間に、
2人が愛を育んできたシーンを
回想として持ってきたプログラムの構成は粋なはからいだなと思いました。
疲れが出る後半に
まるで背中に羽根でも生えているかのように
いとも簡単に次々と跳ぶジャンプのコンビネーションは華があり
群を抜いて素晴らしいものですが
得点が加点される後半に全てのジャンプを組み込むプログラムの構成には
賛否両論がありました。
前半部分はただ時間稼ぎにクルクル回っているだけだと悪口もたたかれていましたが
私としてはバレエの要素をふんだんに取り入れられた前半も
見応えがあったと思います。
特に前半の演技でワンフレーズごとに見せる
ちょっとした仕草がとっても可愛くて好きです。
例えば、こんな仕草とか.......
両手を伸ばして前で交差するこの仕草がなんとも可愛らしくて
大好きなんです。
そして全てを滑りきったあと、フィニッシュのこのポージングも
とってもチャーミングです。
ところでこの衣裳は、タカラトミーから販売されていた
リカちゃんのドレスの中のアイススケートというドレスセットを
ザギトワ風に改造したものです。
3年程前にアイススケート靴目当てに購入しましたがずっと仕舞い込んでいて
忘れられていた存在でした。
オリンピックでザギトワ選手のフリーの演技を見たとき
あれ?この衣裳どこかで見たことがあると思って
仕舞っておいたドレスを探したところ
ザギトワ選手の衣裳にとても良く似ていたので
さらによく似せるように、袖をとってノースリーブにし
さらにチュチュの丈を短くカットしました。
そしてタイツをベージュに染めて
スケートシューズのブレードをシルバーに塗りました。
この衣裳を販売した3年前は、
タカラトミーのリカちゃんデザイナーもこの衣装を
次のオリンピックでゴールドメダルを獲ったスケーターが着るとは
思いもよらなかったはず。
これはすごい先見の明があったと思いましたが
よく調べてみたら、この衣裳は
ザギトワ選手がオリンピックで着た衣裳というよりは
15歳の頃にメドべージェワ選手が着ていた衣裳に
非常にそっくりでした。
その後その衣裳は同じ門下生であるザギトワ選手に譲り渡され
ザギトワ選手はこの衣裳をジュニア時代に着ています。
ちょうど2014年あたりだったので
このタカラトミーのアイススケート衣裳はそのデザインを
参考にして作られたのではないかと思います。
オリンピックでザギトワ選手が着ていた赤いチュチュは
メドべージェワ選手のお下がりのチュチュではなくて
よりドン・キホーテのテーマに近づけられるように
メドべージェワ選手のお下がりのチュチュのデザインをベースにして
ザギトワ選手のアイデアを取り入れた新しいものに作り直されているそうです。
このブログ記事を書いている途中で
ロシアの13歳のアレキサンドラ・トルソワ選手がブルガリアで開催された
世界ジュニア選手権で女子では史上初の4回転を2度成功し
昨年優勝したザギトワ選手の記録を大幅に塗り替えて
ジュニア世界最高得点を叩き出したというニュースが流れました。
大会が行われるたびに新たな新星を生み出してくるロシア勢。
4年後の北京ではどんな異次元の闘いが繰り広げられるのでしょうか。
ただ、成長途中である女子の若い選手には
誰でも通らなければならない体形変化の壁があります。
身長が1センチ違っただけで回転軸がずれてしまったり
身体が丸みを帯びることで体重や筋肉の付き方が変ってしまい
昨日まで簡単に跳べていたジャンプが全然跳べなくなってしまったという話を
聞いたことがあります。
もしかしたらその壁を乗り越えるのは、
難しいジャンプを跳べるようになることよりも
ずっと困難なことかも知れません。
いくらジュニア選手権で新星と騒がれていても
その将来は約束されていない過酷なスポーツなのです。
今季までの数シーズンで男子、女子ともジャンプのレベルがアップし
その結果、技術点が大幅に引き上げられました。
男子では4回転を跳べないと優勝できないとまで言われています。
その結果、来シーズンからルール変更が行われ
4回転ジャンプ数の制限や基礎点の引き下げなどが検討されているそうですが
優勝を目指すのにただ単に高度なジャンプを習得するのだけでは
中国雑疑団のようなアクロバット大会になってしまいます。
羽生選手が言っていたように
難しいジャンプを含めたトータルな芸術的な演技を目指してもらいたいなと思っています。